ぶち壊せよ。 狂乱せよ。
病室で目が覚めた時
身体が鉛のようにずっしり重く
まるで地面に貼り付けられているかのように
身動きができなかった
関節は固まり筋肉はこわばり
皮膚はまるでゴムのよう
身体が全く言うことを聞かない
内側のあらゆる細胞たちが
それぞれに合う「合致点」を
探してるような感覚だった
まるで魂だけ
別の肉の塊に移されたようだ
自分の身体のようで
全く違うものだ
と同時に
全身に激しい痛みを感じた
ここはどこなんだろう
何が起きているのか
わからない
わからない
生まれて初めて
重力を感じたかのようだった
我が子を出産した直後だというのに
あの時私は
ただただ何もかもがわからなかった。
***
ある夜。
真っ暗な病室で
私はフィルムカメラを片手に
一人窓辺に佇んでいた
切開した12cmほどの腹の傷が
燃えるようにただれ
息をするだけで激しく痛むのに
窓の外に見えるビルの夜空に
どうしようもなく胸焦がれた
この瞬間を切り取りたいと願った
病室でシャッターを切ったのは
たった2回だけ
1枚は生まれてすぐの息子の寝姿、
もう1枚は真っ暗な病室中で
空に向かって切った1枚
あの時私の身体が体験した感覚
あれは、生まれたばかりの
息子の感覚そのものだと思ったんだ
術後私が眠っていたのは
たった数時間だった
理由なんてわからない
根拠なんてない
説明だってできない
だけど「知っている」
なんかわからないけど「わかる」
そう感じたんだ
***
退院して1ヶ月の間、
実家で過ごした。
相変わらず
身体は言うことを聞かない。
その上24時間常に
気が立っていた。
あれはまるでケモノのようだった。
全方位に殺気立ち
針のムシロに360度囲まれ
常に晒されてるかのようだった。
***
ある昼下がり、
私は突然思い立ちカメラを手にしていた。
息子のnew born photoを
撮ろうと思ったんだ。
実はそれまで
海外の写真を眺めていて
イメージはずっとあった。
私だからこそできる次なるアクションは
新生児photoかもしれない。
そう思っていた。
そんな私の様子を
そばで見ていた母が
感心した様子で私に言った。
「あなたすごいわね。タダじゃ起きないのね」
私はその一言が
なぜかすごく嬉しかった。
そう。私は何一つ
諦めてなんかいなかった。
***
自分に起きるあらゆる出来事
絶望さえも利用してやろうと言うくらいの
したたかさ
翻弄されながら
絶望しながら一方で
、
これをどう生かしてやろうかと
密かに目論んでいるあざとさ
絶望とは毒だ
そしてその毒とは
巨大なパワーだ
あざとさとは
暴れ狂う血そのものだ
体裁のいい
誰にとっても耳障りのいい美しさなんて
気持ち悪いだけだ
「生きろ。」
生きるって言うのは
本当はどうしようもなくみっともなくて
とてもじゃないけど見ていられない
痛々しいほどの行為なんじゃないか。
ぶち壊せよ。
狂乱せよ。
そんな姿に
私はどうしようもなく美しさを感じるんだ。
(写真は産後病院で撮った唯一の2枚)
(追伸:new born photoは速攻で諦めました。
びっくりするくらい向いてなかったw)